クリニカ・メモリーズ 前編

1.出会い

 キュイイイイイイイイイイン!!
 とある歯科医院の診療室内。エアタービンの音が響き渡る。診療台では6歳のアイナがムシ歯の治療を受けている。
「はーい、ちょっとガマンしててねー」
「あががーーーー!」
 歯科医師の呼びかけなど耳に入らないまま、アイナは歯を削られ痛みから奇妙な声を出した。
「もう、歯医者さんイヤっ!」
 治療を終えたアイナが、待合室で涙目になりながら叫んだ。隣には付き添いで来た母親のレイコが座っている。アイナの大声を聞いたレイコは、あわてて右手人差し指を口に当てながら言う。
「しーっ、静かに。だったら、しっかりと歯みがきしないとね」
「してるもん! 歯みがきしてるもん! 毎日!」
 アイナは目をつり上げながら答えた。それを聞いたレイコはこう思うのだった。
(確かに、この子の言うとおり、毎日自分で歯みがきしてるけど……ムシ歯になってしまうのは、どうしてかしら……)
 自分の娘がムシ歯のために涙を浮かべる姿に、レイコは心が痛くなった。
(なんとかして、この子をムシ歯から守ってあげたい。でもどうすれば……)

 時は1981年の10月。アイナはこの年小学校に入学した1年生だ。その日の朝、アイナはあわただしく登校のしたくに追われていた。
「わああっ、遅刻しちゃうよー、いってきまーす」
「アイナ、待って!」
 玄関から外へ出ようとしたアイナを、レイコが呼び止めた。
「忘れ物! 歯みがきセット!」
 レイコの右手には小さな巾着袋。この中にアイナの歯ブラシ・歯みがき粉・コップが入っている。アイナの学校では、給食の後に歯みがきをすることになっているのだ。
「あっ、いっけなーい」
「ランドセルこっちに向けて。ママが袋をかけてあげるから」
 レイコは歯みがきセットの袋をアイナのランドセル側面のフックに引っかけた。
「はい、これでよし! あ、それと中に新しい歯みがき粉、入れておいたからね」
「うん! じゃ、いってきまーす」
 アイナは元気な声とともに外へ出た。
(新しい歯みがき粉かー、ママ、今度は何味入れてくれたのかな? お昼の歯みがきが楽しみー)

 小学校の昼休み。給食を食べ終えたアイナは、歯みがきセットの袋を開けた。
「ふふーん、歯みがき歯みがきー」
 アイナが普段使っている歯みがき粉は、こども用のフルーツ香味がついたもの。歯みがき粉が切れるたびに、母親が新しいものを用意して袋に入れる。ある時はイチゴ味、またある時はバナナ味、そのまたある時はオレンジ味と、新しくなるたびに違う味となっていて、アイナはそれをいつも楽しみにしていた。
 アイナは中に入っている歯みがき粉のチューブを見つけ、手に取った。
「ん!?」
 いつもとチューブの大きさが違う、そう感じたアイナがチューブを取り出して見ると……そこには「CLINICA」と青い縁取りのある大きな文字が書かれ、その隣には黒の文字で「LION」と書かれていた。
「お、大人用!? なんで?」
 アイナは驚きの表情を浮かべた。
「えっと、これ何て名前の歯みがき粉?」
 アイナはまだアルファベットが読めない。しかしチューブの裏側に書かれているカタカナで、名前は判明した。
「『クリニカ』……ママったら間違えて入れたなー。仕方ないや、これ使おう」
 アイナはふくれ面で不満を漏らしつつも、手洗い場へと向かうのだった。
 手洗い場でアイナはその「クリニカ」という名の歯みがき粉を歯ブラシの毛につけた。スーッとする香りを感じる。同時に花のような甘い香りもしている。
「大人用の歯みがき粉、初めて使うけど……どんなかな」
 アイナはそうつぶやいて、歯ブラシを口の中に入れた。左下の奥歯をみがいていく。シャカシャカシャカ……
「かっらーい!」
 アイナは歯ブラシを口から出した。ミントの味が舌に触れ、辛さを感じたことに驚いたのだ。
「大人用って、こんなに辛いの?」
 刺激の強さに一瞬衝撃を受けたアイナだったが、気を取り直して再び歯をみがき始めた。
(うー、ピリピリスースーするよー、泡もブクブクー。甘いにおいと味もするけど、辛いほうが勝ってる感じ)
 アイナはそんなことを思いながら、ひととおり歯をみがき終えた。泡をはき出し、コップの水を口に含んでブクブクとすすぐ。すすいだ後もアイナの口の中にはミントの清涼感が残っていた。
「はー、お口がスースーするー」
「あっ、クリニカだー」
 アイナの右隣から声が聞こえた。手元に置かれたアイナの歯みがき粉を指さす手。その手と声の主は、アイナの友達・リサだった。アイナはとっさにリサにたずねる。
「リサちゃん、これ知ってんの?」
「うん、ライオンの新しい歯みがき粉、クリニカ。テレビのコマーシャルでやってるよ」
「そうなんだ。知らなかった」
「クリニカって『こーそ』が『しこー』をブンカイするんだって。それでムシ歯を防ぐって、テレビで言ってたよ」
「え? 何それ」
「あたしもよくわかんない。でもね、あたし今の歯みがき粉終わったら、次はクリニカにするんだ!」
 リサは左手に持っている自分の歯みがき粉を見せた。「ホワイト&ホワイトライオン」リサはすでに大人用を使っている。
「リサちゃんのはもう大人用だから、辛いのでも平気だよね。わたしなんか今日初めて大人用使ったんだよ。辛かったー」
「あたしも初めは辛くてイヤだったけど、そのうち慣れてきたよ。大丈夫だよ」
 リサはそう言って歯をみがき始めた。

 アイナは家に帰るなり、歯みがきセットのクリニカを取り出して、レイコに見せた。
「ママ! 間違えて大人用歯みがき粉入れたでしょ!」
 アイナが強い口調で言った。レイコは冷静に答える。
「間違えてないわよ。最初からそのクリニカを入れるつもりだったわよ」
「なんで?」
「アイナももう小学生だし、そろそろ大人用にしてもいいかな、と思って」
「それだけで?」
「あとね、アイナのことを考えて、クリニカを選んだのよ」
「わたしのこと?」
「そう。こないだアイナは歯医者さんでムシ歯を治療してもらったわよね。でも、もうムシ歯になんてなりたくないでしょ?」
「なりたくない! 歯医者さんイヤ!」
「だから、なんとかしてムシ歯にならないようにできないかなと思っていたら、新聞にクリニカの広告があってね。そこに『新・ムシ歯予防ハミガキ』って書かれていたから、これをアイナに使わせようと思って、スーパーへ行ってクリニカを買ってきたの。値段は他の歯みがき粉よりも高めだったけど、それでも『歯垢を分解する酵素入り』とあって効き目が高そうだから、アイナのためにと奮発したのよ」
「『しこー』とか『こーそ』とかって、何なの?」
 今日リサから聞いたのと同じ言葉がレイコから出たことに、アイナは反応した。
「歯垢は歯にくっつくネバネバの白っぽい汚れで、ハのアカと書いて歯垢」
「うえー、きたなそう」
「で、この歯垢はバイ菌の集まりで、ムシ歯の原因。わかりやすく言うと『ムシバラスのかたまり』かしらね」
「ム、ムシバラス……!」
 ムシバラスがどのような姿形なのか、アイナは「こどもライオンはみがき」のテレビコマーシャルを見て知っていたので、それを想像して不気味さを感じた。
「そのムシバラスのかたまり、歯垢を分解してくれるのが酵素なんだって。それで歯垢を落とせて、ムシ歯を防げるらしいわ」
「『こーそ』がムシバラスをやっつけるんだね」
「だからアイナ、ムシ歯にならないように、しっかり歯垢を落とすのよ」
「うん! わたし、歯みがきがんばる! クリニカでみがく! ムシバラスが歯にくっついてるなんて、イヤだもん」
 どうやらアイナが話に納得してくれた様子で、それを見たレイコはフフッと微笑を浮かべた。

 アイナが歯みがきでクリニカを使い始めてから1ヶ月ほど経った。最初刺激に驚いたミントの香味。まだ辛いと感じるものの、だいぶ慣れた。さらに、アイナの家で家族全員が使う歯みがき粉もクリニカになった。これでアイナは朝昼晩3回クリニカみがきをしていることになる。
 ある日の晩、アイナは寝る前の歯みがきをすると、レイコのところへと行った。
「ママ、『しこー』のチェックー。いーっ」
 アイナはそう言うと、自分の口角に指を引っかけ横に引っ張り、自分の歯が外に見える状態をレイコに見せた。
「アイナ、最近よくそれやるわね。テレビで見てから」
 口角を横に引っ張り歯を見せる。この動作はテレビでやっているクリニカのCMで出演者がおこなっているもので、アイナはそれをマネしているのである。レイコはアイナの歯のチェックをする。
「だーめ、まだよくみがけてないよ」
「えー、そう?」
「歯垢が残っているから、そのままだとムシ歯になっちゃうわよ。だからもう一度みがき直しましょ」
「はーい」
 アイナとレイコはそろって洗面台へ向かった。
「今度はママもいっしょにみがくわね」
 洗面台でレイコはそう言うと、クリニカのチューブを手に取り、まずアイナの歯ブラシに、次に自分の歯ブラシにつけた。
「このクリニカ、お花のようないい香り。それにミントの辛さがひかえめだから、みがきやすいわ。じっくりとみがける」
 手に持つチューブを見つめて、レイコがふと口にした。歯をみがき始めたアイナはそれを聞いてこう思った。
(ママはクリニカが辛くないんだ……大人はこれが辛いとは感じないのかな)

 次の日の昼の歯みがき時間。
「アイちゃん、いっしょにみがこ」
「うん」
 アイナとリサが手洗い場で並んで立つと、リサは自分の新しい歯みがき粉をアイナに見せた。アイナと同じクリニカだ。
「じゃーん! 今日からあたしもクリニカだよ!」
「わあっ、おそろいだね」
「じゃさっそくみがこう」
 リサは歯ブラシにクリニカをつけて、歯をみがき始めた。それを見たアイナもみがき始めた。するとリサは歯ブラシを持つ手を一度止めた。
「これ、あんまり辛くなくて、こども用みたい」
「えっ、そう? けっこうスースーするよー」
「いやいや、前あたしが使ってたホワイト&ホワイトのほうが、ずっと辛いって。こっちはそんなに辛くないよ」
「リサちゃんはそう感じるんだ……」
 アイナは昨晩のレイコの言葉をよみがえらせつつ、こう思うのだった。
(ママは大人だから辛くないんだと思ったけど、こどものリサちゃんもこれが辛くないんだ……じゃリサちゃんは大人になっているってこと……?)
 アイナは自分よりリサのほうがひとつ成長しているように感じ、少しうらやましくなった。
(わたしも辛いのが平気になれるのかな……大人になれるのかな……)
 並んだふたりは、鏡に向かって自分たちの顔を見ながら、シャカシャカと歯をみがいていく。
「いーっ」
 歯をみがき終え口をすすいだふたりは、そろって指で口角を横に引っ張って、鏡に映る自分たちの歯を見た。もちろんCMのマネだ。
「これで『しこー』が落ちたかな」
「たぶん落ちたと思う」
「クリニカ、あんまり辛くないけど、みがいた後サッパリするね」
「『しこー』が落ちたからサッパリするんだよ。ムシバラスのかたまりが」
「えっ?『しこー』ってムシバラスなの?」
「うちのママが言ってた。ムシバラスのかたまりが歯にくっついているんだって」
「うわー気持ち悪っ。じゃ『こーそ』で落とさなきゃ」
「だね。ムシ歯イヤイヤ」
「あたし、ムシバラスやっつけてやるんだから! 絶対ムシ歯になんてしないぞ!」
「わたしも!」

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↑1981年新発売当時のクリニカ


2.DFC

 時は流れて1985年9月。アイナは小学5年生となり、心と体が少しばかり大人びてきた。
「ムシ歯の原因〈歯垢〉を分解する酵素《デキストラナーゼ》配合、と」
 朝の歯みがきのとき、アイナは歯みがき粉のチューブに書かれている文言を読んだ。アイナが使う歯みがき粉は、1年生のときからずっと変わらずクリニカ。当時読めなかったそこに書かれている文言が、今では難なく読めて意味を理解できる。
「今日もよろしく、クリニカくん!」
 アイナはそう言って歯をみがき始めた。花のような甘い香りとミントのさわやかさで、口の中が気持ちよくなっていく。4年前には「辛い」と強く感じたこの香味も今では平気になり、むしろもっとミントの刺激があったほうがいいとまで思うほどになった。
 言葉の理解度が増していき、また味の好みも変化していった。アイナは確実に成長していき、大人へと近づいている。4年前に自分は大人になれるのかと心配していたことなど、すっかり吹き飛んでいる様子だった。

 ある日のこと、レイコはスーパーへ買い物に出かけた。
「そうだわ、アイナが学校へ持っていく歯みがき粉を買っておかなくちゃ」
 レイコは日用品売り場へと行った。そこの歯みがき粉・歯ブラシコーナーに多数並ぶ歯みがき関連商品。その中でクリニカは割と見つけやすい。他にはあまりない濃い青色の箱に入っているからだ。
「へえ、新しく『DFC』ってついたのね、クリニカ」
 青い箱には赤地の丸に白の文字で「D」「F」「C」の3文字が書かれていた。この年の夏、クリニカは刷新してデキストラナーゼのD・フッ素のF・殺菌剤クロルヘキシジンのC、3つのムシ歯予防薬用成分配合をうたう「クリニカDFC」となったのだ。
「あら、小さいサイズも新しく出たのね」
 クリニカが陳列された棚の端に、内容量40グラムの小さな箱に入ったクリニカがあるのをレイコは見つけた。
「ちょうどいいわ。小さいサイズなら持ち運びのとき、かさばらなくていいでしょうし」
 レイコはそうつぶやきながら、カゴに小さいサイズのクリニカを入れた。

 その2週間後、レイコはアイナの歯みがきセット袋に新しいクリニカを入れ、アイナに渡した。そしてその日の歯みがき時間、アイナはクリニカを取り出した。
(あ、小さいサイズのが出たのかな)
 そう思ったアイナだが、実物を目で見た瞬間、顔が驚きの表情に変わった。
「こ、こ、これ……『こども用』って書いてあるじゃんー!」
 小さいサイズのクリニカは、よく見ると「CLINICA」のロゴの左側に歯みがきをする幼児のイラストが描かれており、その下には小さく「こども用」と表記されていた。クリニカはクリニカDFCとなったのと同時に、幼児にも使えるようにと新たにこども用が発売されたのだ。
「もー! お母さんったら間違えて買ったなー。わたし、もうこども用なんて使う歳じゃないのに」
 アイナはすでに母親の呼び方が「ママ」から「お母さん」に変わっていた。この点でも成長が見えている。
「いいや、今日はこれでみがくか」
 こども用のクリニカDFCはキャップがチューブと一体化してつながっており、片手で開閉できるワンタッチタイプとなっている。これならば開けやすいうえ、うっかりキャップを落としてなくす心配もない。アイナはキャップを左手親指でポンと開けた。
「昔わたしが使ってたこども用のやつも、こういうキャップだったな」
 歯ブラシにこどもクリニカDFCをつけて歯をみがく。すると口の中には甘いフルーツミックスの香りが広がった。アイナが昔使っていた、こども用のフルーツ香味の歯みがき粉。それを思い出し、アイナは懐かしい気分に浸りつつ歯をみがいた。ほんのちょっぴりスーッとする感覚があったが、普段使っている大人用に比べればそれは気にならない程度であった。口をすすいだ後、アイナはこうつぶやくのだった。
「フフッ、ひさしぶりだね、こども用使うの。でもスッキリ感が足りないかなー」

 学校から帰ったアイナは、レイコが間違えてクリニカDFCのこども用を買って渡した件についてレイコに問いただした。
「ごめんねー。てっきり大人用の小さいサイズだと思っちゃったの。買ってから間違えたって気づいたんだけど、買っちゃったものは仕方ないと思って。バレないかなと思って袋に入れたけど、やっぱりバレちゃったね」
 さすがに今回は弁解の余地がないと悟ったのか、レイコはアイナに対し平謝りだ。そんなレイコに対し、アイナはあきれた表情を浮かべた。
「もー、ちゃんとよく見て買ってよね!」
「はい、これから気をつけます」
「ま、でもひさびさにこども用使って、悪くはなかったかな」
 レイコのわびの言葉を受け、アイナは少し目をそらしながら、ポツリと言った。
「で、アイナ、こども用クリニカってどんな味だった?」
「んー、大人用のクリニカからミントを抜いたような味だったなー。フルーツミックスの味だったけど、今のわたしはミントのさわやかな感じがあるほうがいいかな。だからやっぱり、学校での歯みがきは大人用のクリニカにする。5年生でこども用ってのも、ちょっと恥ずかしいからね。こども用は家で使うことにするよ」
「それじゃ、お金渡すから、スーパーへ行って大人用のクリニカ、買ってきなさい」
「えー、わたしが行くの?」
「アイナが使うものでしょ。自分のものぐらい、自分で買うようにしなきゃ」
「ぶー、間違えて買ったのはお母さんじゃない……」
 アイナはふくれ面で不満をこぼしつつも、しぶしぶ金を受け取りスーパーへと向かうのだった。

 スーパーへとやって来たアイナは、日用品売り場の歯みがき粉の棚へと行った。そこで大人用のクリニカDFCを確認し、手に取った。
「まったく、お母さんったら大人用とこども用を間違えるなんて」
 そうグチをこぼしながら、アイナはクリニカDFCの箱の裏面の説明書きを見た。普段は自分が使う歯みがき粉をレイコに買ってもらっているので、アイナは今まで箱に書かれている説明書きを見たことがなかった。しかし今回は自分で買うこととなったので、ようやくそれを見ることができると興味を抱いていた。箱にはこう書かれていた。

・D《デキストラナーゼ酵素》が落ちにくいムシ歯の原因、歯垢を分解します。
・F《フッ素(モノフルオルリン酸ナトリウム)》が歯質を強くし、ムシ歯にかかりにくい歯にします。
・C《殺菌剤(グルコン酸クロルヘキシジン》が歯垢をできにくくします。

「へー、この3つでムシ歯を予防するんだ」
 アイナは説明書きを見て言った。デキストラナーゼ酵素が歯垢を分解することは以前から知っていた。だがフッ素が歯質を強くすることや、殺菌剤のことについてはここで初めて知った。
「歯垢を落として、歯を強くして、歯垢をできにくくする。そうして確実にムシ歯を防ぐってことね。やっぱりすごいわ、クリニカって」
 そんなことをつぶやきつつ、アイナはレジへと向かっていた。

 アイナはクリニカDFCを買って帰宅すると、さっそく箱を開けて中のチューブを取り出した。見ると、キャップが今までとは異なるものとなっていることに気づいた。今までどおりキャップを回してみるが、開かない。どうするのかと思い箱の説明書きを見ると、キャップをつまんで開ける図とともに「プッシュポン! ワンタッチであきます」とあった。
「あ、これ、キャップをつまむんだ」
 開け方がわかったアイナはキャップをつまんだ。ポン!と軽い音とともにキャップが開いた。閉じるときはどうするのかと一瞬思ったが、それもすぐに解決。キャップをパチンと押し込めば閉じた。
「おもしろーい、キャップがこんなふうに変わってたなんて。いちいちキャップを回さなくていいから、ラクだね」
 そしてアイナは次の日から大人用クリニカDFCを学校に持っていき、昼にプッシュポンでキャップを開けて歯みがきをおこなうのだった。
 
 アイナが1年生のときムシ歯にしてしまった乳歯も今では抜け落ち、永久歯に生え替わった。5年生になってアイナの歯はすべて永久歯に生え替わり、歯についてはこれで大人になったことになる。
 そのアイナの歯は、ずっとクリニカでみがかれ続けてきた。基本1日に朝昼晩3回、休みの日に外出で昼に歯みがきできないときもあったが、最低限朝晩は必ず歯をみがいてきた。その成果か、アイナは永久歯となった自分の歯をムシ歯なしの状態に保てている。
 アイナの乳歯ムシ歯処置歯が抜け落ちてから、アイナの歯はかげりない天然歯だけとなっている。これは4年生のときからだ。それから5年生・6年生と2年連続で歯科検診でムシ歯なし・処置歯なしとの結果が出たことで、アイナは「歯の健康優良賞」の特別表彰を受けた。全校朝礼のときに、全校児童がいる場で校長から表彰状の授与がおこなわれた。
「これからも、歯を大事にしてくださいね」
「はい」
 校長の言葉とともに、アイナは表彰状を受け取った。
(うれしい。クリニカに出会ってから「歯垢」のことを知って、歯垢を落とさなきゃいけないと、クリニカでしっかりとみがき続けてきたからかもね)
 そんなことを思うアイナだった。

 その後アイナは、6年生の冬に私立中高一貫女子校である白獅子(しろじし)女子学園を受験。面接の際に面接官から
「あなたが自分で誇れることは何かありますか?」
 と質問されると、アイナはこう答えた。
「ムシ歯が1本もないことです!」
 そのためかどうかは定かではないが、アイナは無事に合格。春から白獅子女子学園で新たな学校生活を送ることとなった。

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↑1985年に発売された、こどもクリニカDFC



(後編に続く)